大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)713号 判決 1954年1月28日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士森岩太郎、同宮城実の上告理由第一点について。

所論は、昭和二六年六月一日法律一八九号(日本国有鉄道法の一部を改正する法律)施行以前においても、地方公共団体の議員と日本国有鉄道職員との兼職は禁じられており、従つて、これら職員が右の議員に当選した場合は、公職選挙法一〇三条一項の適用があると主張し、訴外高野三郎等九名は右条項の届出をしていないから、その当選を失つた者であるというに帰する。

しかし、右二六年法律一八九号による改正以前の日本国有鉄道法二六条二項は、同法一二条二項三号に該当する者と日本国有鉄道職員との兼職を禁じているけれども、当時の右一二条二項は号もなく特定の職を規定したものではないから、右二六条二項は全く意味のないことを定めた規定であると言わなければならない。従つて、右によつて地方公共団体の議会の議員と日本国有鉄道職員の兼職が禁じられていたものと解することは到底できない。そもそもかような無意味な規定を生じたのは、昭和二五年法律一五九号により日本国有鉄道法の一部を改正するに際し、同法二六条二項を改正しなかつた誤りによるものであることは説明を要しないところであつて、同条の沿革等から考慮して同項の「第十二条第二項第三号」とあるのは「第十二条第四項第三号」の趣旨であるという解釈も論理的には一応肯けないこともないが、元来地方公共団体の議員の選挙は、住民の基本的な権利として認められているのであるから、明確な規定のない限り、議員との兼職が禁止されているとし、ひとたび住民によつて選挙され当選人と定められた者について公職選挙法一〇三条一項を適用して当選を失うものとすることは妥当ではない。従つて、大宮市選挙管理委員会が、前記高野等について当選を失わないとしたのは正当であり、被上告人が上告人の訴願を斥けたのも、結局において違法ではない。原判決の判示は右説明と異るけれども、その結論においては結局正当であつて、論旨は理由がない。

同第二点において。

論旨は本件の場合は地方自治法一二八条の適用がなく、従つてこの点に関する原判示は違法であるというのであるが、同条は選挙又は当選の効力に関する争訟の提起によつて議員がその職を失うものでないことを規定しているのであつて、本件争訟も訴外高野等の当選の効力に関する争訟である以上、同条の適用のあるのは勿論、前述のように右訴外人等の当選は無効ではないのであるから、同人等について同条の適用がなく、当選人でないと主張するのは全く理由がない。論旨は昭和二六年法律一八九号が遡及効を有することとしたのは違法であると主張するけれども、前述のように、右訴外人等は本来当選人であるべき者であるから、同法の附則で従前の議員たる職を認めたからと言つて法律を遡及適用したものということはできない。論旨はまた、同法が兼職禁止の精神に反し憲法違反の法律であると主張するのであるが、兼職を認めることが如何なる理由によつて、また如何なる憲法の条項に違反するかを明かにしていない主張であるから、これをもつて違憲の主張と認めることはできない。

同第三点について。

論旨は、昭和二六年法律一八九号が憲法前文、一一条、一二条、一三条、一五条等に違反するというのであるが、所論は訴外高野等が本件選挙における当選を失つたことを前提としており、そして、前段説明のとおり同人等は当選を失うものではないのであるから、上告人の違憲の主張はその前提においてすでに理由がないものと言わなければならない。

以上説明のとおり論旨はすべて理由がないから、本件上告を棄却することとし、民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例